建材や家具製造でUV塗装に置き換えることのメリット
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建材や家具の製造現場では、ウレタン塗装やラッカー塗装、ニス塗装などの溶剤系塗装が一般的に用いられており、製品としての美観や耐久性を高めるための最終仕上げ工程として重要な役割を果たしています。
一方で、環境・生産性・安全面での課題も懸念されており、作業環境や生産性の観点から見直しを求められるケースが増えています。
そうした背景から、近年注目されているのが「UV塗装」です。
このコラムでは、UV塗装の基本とそのメリット、導入のポイントについてご紹介します。
溶剤系塗装の課題
溶剤系塗装には、仕上がりの美しさや耐久性の高さ、汎用性の広さといった利点があり、これまで多くの建材・家具製造の現場で採用されてきました。
長年の運用実績があり、素材や用途に応じた柔軟な対応が可能なことから、今でも広く使われている工法です。
一方で近年では、乾燥時間の長さによる生産効率の低下や、有機溶剤の使用による環境負荷や作業者への影響といった側面が課題として挙げられるようになっています。
また、作業環境の管理や安全対策に一定の配慮が必要となることも、現場の負担につながるケースがあります。
これらの背景から、従来の技術と併せて、より効率的で持続可能な塗装方法の活用を検討する動きが徐々に広がりつつあります。
UV塗装とは?
こうした中で注目されているのが、「UV塗装」です。
UV塗装とは、紫外線を照射することで塗料を瞬時に硬化させる技術で、乾燥時間がわずか数秒〜十数秒と非常に短いのが特徴です。
この塗装方式は、作業プロセスの簡素化や環境配慮といった面で多くの可能性を持っています。
次章では、UV塗装が製造現場にもたらす具体的なメリットについて詳しくご紹介します。
UV塗装のメリット
溶剤系塗装と比較すると、UV塗装には下記のような期待があります。
製造の効率化
UV塗装が製造現場にもたらす変化のひとつが、生産効率の向上です。
従来の溶剤系塗装では、塗装後に自然乾燥や熱乾燥を必要とするため、乾燥時間が工程上のボトルネックとなることがあります。
これに対し、UV塗装は紫外線を照射することで、数秒〜十数秒という短時間で塗膜を硬化させることができます。
この即時硬化により、塗装後すぐに次の工程へ進むことが可能となり、全体のリードタイムを短縮できます。
また、製品を乾燥させるためのスペースや台車、搬送の手間も減るため、乾燥工程に占有されていた工場内スペースの有効活用にもつながります。
さらに工程が簡素化されることで、待ち時間の発生を最小限に抑えられるほか、生産計画の見通しも立てやすくなるといった利点もあります。
こうした要素により、UV塗装は単に塗装速度を上げるだけでなく、製造ライン全体の効率と柔軟性を高める手段としても注目されています。
電力コストの削減
UV塗装の導入は、製造現場における電力コストの削減にも貢献します。
従来の溶剤系塗装では、塗装後に乾燥工程が必要となり、乾燥炉や送風装置を長時間稼働させることで、多くの電力を消費します。
特に量産体制を取る現場では、この乾燥工程のエネルギー消費が電力使用量を増幅させることもあります。
一方、UV塗装は塗膜を数秒〜十数秒で硬化させることができるため、乾燥工程にかかる稼働時間が大幅に短縮されます。
結果として、必要な電力消費量が減少し、電気代の節約に繋がるのです。
さらに、UV塗装では一般的にコンパクトな紫外線照射装置を用いるため、設備の消費電力そのものも比較的低く抑えられる傾向があります。
加えて、塗装ブース全体の空調負荷も軽減されるため、冷暖房設備の省エネ効果にも波及します。
このように、UV塗装は直接的なエネルギー使用の削減だけでなく、工場全体の電力負荷を抑える効果も期待でき、経済性のメリットをもたらします。
作業者の安全を確保
UV塗装は、作業者の健康や安全に配慮した塗装方式としても注目されています。
従来の溶剤系塗装では、塗料に含まれる揮発性有機化合物(VOC)や有害な化学物質などが、作業空間に拡散するリスクがあります。
これにより、長時間の作業による健康への影響や、適切な換気・防護対策の維持管理が必要となることもあります。
一方、UV塗装に用いられるUV塗料には、人体に悪影響を及ぼす物質を含まない、あるいはVOCを含まないタイプの塗料が多く開発・使用されています。
そのため、作業者が吸引・接触によって有害物質にさらされるリスクが大幅に低減されます。
さらに、UV塗装は塗布後すぐに硬化するため、未硬化塗料が空気中に滞留する時間が短くなることも、作業環境の安全性を高める理由のひとつです。
このように、UV塗装は作業者の健康被害リスクを軽減し、よりクリーンで安心できる作業環境の構築に貢献します。
安全性を重視する工場運営や、労働環境改善に取り組む企業にとって、有効な選択肢となり得ます。
環境負荷を低減
UV塗装は、製造現場の環境負荷を抑える塗装技術としても評価されています。
まず、塗装後に紫外線を照射することで瞬時に硬化するという特性により、消費電力の大幅な削減に繋がることを前章でもご紹介いたしました。
電力消費の削減は、コスト抑制だけでなく環境負荷の低減にも繋がります。
省エネルギー化を実現することで、CO₂排出を抑制し、カーボンニュートラルに貢献します。
また、UV塗装に使用される塗料には、VOC(揮発性有機化合物)を含まないタイプや、有害物質を使用しない環境に配慮した製品も多く、大気汚染や廃棄時の環境負荷を軽減できる点が大きな特長です。
このような観点からUV塗装は、製造現場の環境負荷を総合的に引き下げ、企業のサステナビリティ推進やESG対応にも貢献する技術といえるでしょう。
UV塗装に必要なもの
では、実際にUV塗装を行う際に必要な設備などについてご紹介いたします。
コーティング装置
コーティング装置は、UV塗料を製品の表面に均一に塗布するための機械設備です。
スプレー、ローラー、カーテンコートなど、製品形状や塗装仕様に応じた方式が選ばれます。
塗膜の仕上がりや密着性を左右する重要な工程のひとつです。
UV塗料
UV塗料は、紫外線を照射することで硬化する特殊な塗料です。一般的な溶剤系塗料とは異なり、瞬間的な硬化反応が可能です。
素材や用途に応じてさまざまな種類があり、無溶剤型で環境に配慮した製品も多く販売されています。
紫外線照射装置
紫外線照射装置は、塗布されたUV塗料を瞬時に硬化させるための紫外線を照射する装置です。
UVランプやLEDを使用し、適切な波長・出力で効率的な硬化を実現します。
装置の性能により、塗膜品質や生産速度が左右される重要な要素です。
紫外線照射装置を選ぶ際のポイント
紫外線照射装置は、UV塗装工程の中でも塗膜の仕上がりを左右する非常に重要な機器です。
適切な装置を選定できない場合、塗料が十分に硬化せず、表面にベタつきが残ったり、塗膜の強度・耐久性が不足したりするリスクがあります。
照射する紫外線の波長や出力、均一性、照射距離への対応力などは、使用する塗料や製品形状によって最適な条件が異なります。
また、装置の安定性や製造ラインの変化を見据えた設計なども、長期運用には欠かせません。
こうした点から、紫外線照射装置は業界での実績があり、技術的な信頼性のあるメーカーの製品を選ぶことが、トラブルの回避と高品質な塗装の実現につながります。
まとめ
長年使われてきた溶剤系塗装には、これまでの実績やノウハウに基づく強みがあり、現在でも多くの製造現場で活用されています。
一方で、環境対応や生産性の見直しが求められる今、UV塗装という選択肢が新たな可能性を広げつつあることも事実です。
短時間で硬化できる特性や、省エネ・安全性の観点から、一部の工程や製品への導入を検討する企業も増えています。
すべてを一度に置き換える必要はありませんが、現場の課題や将来的な方針に合わせて、UV塗装の特性を活かせる場面があるかどうかを見直してみるのも、有効な一歩と言えるでしょう。